タイトル | 風俗嬢の気持ち~卒業 |
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投稿者 | ロッシュ |
投稿日 | 2016年01月20日 |
『風俗嬢の気持ち~卒業』 風俗店で働いていると聞きたく無いが、どうしても耳に入ってきてしまう、嬢たちの悲しい人生の過去。見たくは無いが、どうしても気が付いてしまう、嬢たちの瞳の奥に隠された暗く深い陰。 その嬢は、まだハタチそこそこのあどけない少女。にも関わらず、人生悟ってしまった感が全身から滲み出てしまっている・・この少女の過去に一体何があったのだろうか・・? その曇った瞳とその無表情、そして見た目とは不釣合いなオトナびたその態度・・恐らく、この子の過去には聞くに堪えない何か悲しい悲劇があったに違いない、私にはそう感じられてなりませんでした。 目に入れても痛くない、自分の娘だったら溺愛してワガママ何でも聞いてしまうだろうな・・と思える程の可愛らしいその嬢。人気嬢だったので待機室に控えている事は滅多に無かった嬢でしたが、休憩中は他の嬢たちと全く話をすることもなく、ただTVの画面を「じぃっー」と見つめているだけ。無表情、無関心、周りからの干渉を完全に遮断するオーラ・・誰も話しかける事ができない。 事故や災害で家族を失ってしまったみなしご、オトコが蒸発して一人懸命に生きるシングルマザー、難病の母を一人介護する娘・・生きる手段はこれしかない・・人生の選択肢を奪われた囚われの身・・そんな嬢たちを見ていると耳を塞ぎ、目を塞ぎたくなります。嬢のプライベートな事情なんて知りたくもない・・私が嬢たちへの禁句として封印していた言葉。「出身どこ?」「正月実家帰るの?」「兄弟は?」・・など。家族に関する話題は、怖くてできませんでしたね。(´д`) 末っ子で育った私。幼い頃のその生育環境から、人の顔色を伺う能力に優れてしまったのかもしれません。常に弱い立場にいたことから、他人の機嫌を察知する事に関しては、優れた能力が自然と身についてしまっている。正しい事をしても相手の都合次第で理不尽な扱いに支配されてしまう・・自分の主張は全く通らない弱い立場・・他人の意に沿った行動をしなければ、生きていくことが出来ない。幼い頃にそれが身に刷り込まれてしまった私。それが他人の気持ちを敏感に感知する能力を研ぎ澄ましてしまったのでしょうか? 私には、その嬢の心の内が手に取るように分かるような気がしました。いや、具体的には全く分からなかったのですが、その心の根にある本質は、多分分かる。それは深い悲しみと諦め。その嬢の心を染めていた思いは、おそらく『どうせ・・』 この嬢といい、フリー客を全拒否するジョーカーといい、天然スギて話が全く噛み合わない嬢といい、無欠当欠遅刻早退当たり前の自由出勤の嬢といい・・問題嬢だらけで頭を抱える毎日。(´Д`) もうイヤ! こんな仕事!(T_T;) ・・と思いながらも、この嬢を救ってあげるには・・う~ん (;>_<;) 不遇な人生が多い風俗嬢、甘い同情を持ち始めたらキリが無いのですが、こんな少女が人生諦めるのは早すぎるでしょっ!? アラフォーおやじの軽率な同情です。(汗) 気になって、不自然に優しい声をかけてみたり、過剰に親切にしてみたり・・。 (ちゃんと、無償の優しさを与えてくれる人だって、世の中には沢山いるんだよ! 確かに悪い人は多いかも知れないケド、いい人だって沢山いるんだから!)そう、分かって欲しくて。 それは、簡単には届きませんでしたが、徐々に、ゆっくりと嬢の心を揺さぶっていたようです。(?) 以外とたったの2~3ヶ月程でその成果が現れ始める。 時々、私の顔を「じぃっー」と見つめるようになった嬢。私の本性を見抜こうとしているかのような、その瞳が訴えていたのは、 (どうせ、裏切るんでしょ?) (どうせ、口だけなんでしょ?) (何が目的なの?) でも、月日が経つにつれて、次第に嬢の瞳と表情は変わって行く。 (なんで、優しくしてくれるの?) (あなたは、ウソつかない?) (おかしいなぁ・・ヘンな人だな・・何で?) 他人に心を閉ざしてしまっているのか? 言葉を発することがほとんど無い嬢。半信半疑で「じぃっー」と見つめるその瞳に、軽く微笑んで無言の言葉を返す私。(私は、絶対に裏切らないし、何の見返りも求めてないよ。) その嬢と交わした無言の会話・・いったいどれだけ多くの言葉を交わしたことか!? その会話は、表情と仕草だけ。人間、無言でこれだけ多くの会話ができるものなのか!? 不思議な感覚でしたね。(^-^;) かなり時間はかかりましたが、私の気持ちが通じたのでしょうか? ある日突然、 嬢:「これ、あげる。」(忙しくて食べ損なった、おにぎりやお菓子) 私:「ありがとう~!」(*´∀`*) (いらないケド・・) 他人との交流を絶縁していた嬢が取ったその行動に、(え!?)と驚きながらも、自然な振る舞いで温かく返してあげたい。動揺しながらも、冷静を装いなるべく自然な態度で「ありがとう♪(^-^)」と返す私。 嬢は、照れくささか? 自分の取ったその衝動的な行動に自ら戸惑っているのか? それ以上言葉は交わさず、そそくさと私のそばから離れていく。(別に信用した訳ではないから)その背中はそう語っている。でも、それはさながら、初恋の男の子にチョコレートを初めて渡した不安と恥ずかしさでいっぱいの幼い少女の様でもありました。 その後も、暫くはあまり以前と様子が変わらない嬢ではありましたが、それまでとは明らかな違いが現れ始める。 TVの画面を見つめる嬢。その表情には、時折、屈託のない笑顔が。(あれ!?今、笑ったよな? しかも声を出して。) それは、例えるなら、最近激変した『沢○エ○カ様』の様であったでしょうか!? あれ?明らかに以前とは変わったよな!? その穏やかな表情。 心の中に封印していた感情を取り戻したのだろうか? と思わされたその笑顔。それは何か、人生に明るい光を見いだせた証しなのかもしれない、私はそう思いたくて仕方ありませんでした。 嬢が入店して半年位過ぎていたでしょうか? その嬢は、私にだけは、時折感情を見せるようになっていました。私の優しさがホンモノであるのかを確認するかの様な(?)その言動。 接客前に私の所へ寄ってくる(甘えてくる?)ようになった嬢。 嬢:「臭くなぁい?」 私:「く、臭くないよ!(たぶん)オシャレな服装だし、顔も赤くないからっ。」 嬢:「ふ~ん・・じゃあ、いいよ。」 嬢:「怖くなぁい?」 私:「だっ・・大丈夫だよっ(たぶん)。優しそうなオジサンだし、ちゃんと指あるから。」 嬢:「うん・・・わかった。」 接客後に私を「じぃっー」と見つめる嬢。 私:(えっ!?臭かった!?)焦る私。(>_<;) 嬢:「あの人は大丈夫。」(微笑) 私:(なんだ・・驚かさないでくれっ・・涙) 私だけではなく、ごく一部の他の嬢とはおしゃべりするようにもなっており、普通の少女を取り戻し始めたかと感じられる嬢・・未来への希望を持ち始めてくれたのかな!? ある日、その嬢の口から人生を変えようとする気持ちの現れと思われる言葉を聞く。 嬢:「何か仕事ないかな?」 私:「う~ん・・仲良しのキャバ嬢がいるけど、紹介しようか? いちおう歌舞伎町では一流店だよ。」 嬢:『えっ・・・?』 私:「スナックの方がいいかもね? キャバよりアットホームだし。顔が効くママが3人くらいいるから、話、しとこうか!?」 嬢:『ふ~ん・・・』 数ヶ月前に度々見ていた不信の目を久しぶりに浴びる私・・・「じぃっー」 何か、相手を見定めるかのようなその眼差し。 でもその瞳には半年前とは明らかな違いがありました。かつては完全に枯れ果てて灰色に曇っていたその瞳。でも、その瞳は、いまだ陰りはあるものの、今では未来への希望を示す輝きを持っている! 嬢:『そういう店、行くんだ?』(薄笑いではあるが、素朴な笑顔) 私:(えっ!?) 嬢:『お酒飲めない。』 恐らくクリーン過ぎる印象に返って警戒心が拭いきれなかったのであろうか!? 私の汚れた一面??(^-^;)を知って、逆に安心感や親近感を覚えたのかも知れない? 自然とこぼれ落ちたその笑顔。 今思えば、その笑顔は、私が見たその嬢の笑顔の中で一番無垢で最高に美しい笑顔だったのではないだろうか? そう思います。 私が今だに一生忘れることがないであろうその瞬間、その、笑顔。 口数少なかったその嬢、それ故に、その態度と表情、そして、その瞳が語っていた言葉は、無数だったのかもしれない。私は果たして、いったいどれだけその嬢の無言の言葉を受け止めてあげていられたのだろうか・・? そして、嬉しいことではありますが、寂しい事に、ある日を境に嬢の出勤は減っていく。嬢が入店してから一年が過ぎていたでしょうか? 次第に出勤が減り、気がつけば、(あれ?3ヶ月くらい見てないな・・)それが半年となり(もう来ないだろうな?)、そして一年が過ぎ(辞めたのか。) でも、私が店を去る日まで、その嬢の在籍が消えることはありませんでした。(嬢の最後の出勤から約一年半の間) 「また戻ってきて欲しい!」いや、「もうこんな世界には戻ってこないで!」両方の気持ちに揺れる私の心。もう二度と会うことはないであろうと確信しながらも・・。 戦地で家族の写真を見つめる父の気持ちは、こういうものなのかも知れない!?「ひと目だけでもいいから、もう一度だけ会いたい!」「いや、もう二度と会うことはできないだろう・・」 そして、私が店を去る最後の日が訪れる。その日の帰り際、 「更新しますか?」・・・『はい』『いいえ』 その嬢が、もう、二度とこの世界に戻ってこないことを祈って。最後の『はい』を押す。 私が店を最後にしたその日、それは、その嬢の名前が店の在籍から消えた日でもありました。 | |
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